Morita Lab blog

研究室のニュースやトピックスなどを紹介します

R2年度後期授業終了

2020年後期の細胞分子生物学の講義シリーズが終わりました。こちらは主に学部の学生を対象とした感染・免疫についての講義です。本年度は新型コロナウイルスクラスター発生による休講などで講義回数が減ってしまいましたが、なんとか無事に対面授業にて終えることができました。できるだけ身近な現象に例えて説明するように心がけているのですが、今年は新型コロナウイルスが流行したこともあり話題には事欠きません。受講したみなさんの情報リテラシーに少しでも貢献できれば何よりです。3年ほど前から毎回出席を取る代わりに質問を受け付け、次の授業の開始前にいくつかピックアップして解説するということを行なってきました。今年度もハッとするような良い質問がたくさんあり、学生の皆さんの関心の高さを知ることができました。

 

以下はテストを受けた2年生に向けた問題の解説です。興味のない方はスルーしてください。

今年度は中間テストも行いました。中間テストは主に感染と自然免疫についてです。そして今回の期末テストは獲得免疫についての問題がメインとなりました。問題は全て記述式で4問。細かい語句を覚えていなくても内容を理解できていればオーケーです。

最初の問題は、哺乳動物の獲得免疫が自己を攻撃しない仕組みを述べよという問題。獲得免疫のシステムのコアとなる部分についてです。あまりにも漠然とした問いですが、何を書いても良い問題とも言えますので逆に回答しやすいかもしれません。もちろん講義中に説明した内容を説明して頂ければ良いのですが、それ以外のことが書かれていても問題ありません(正しければ)。下記の3点が述べられていたら満点です。1) 獲得免疫はV(D)J遺伝子組換えによって多様性が生じた抗原受容体(TCRBCR)を発現するリンパ球が、抗原刺激によりクローン選択を受け対応している。2)T細胞レパートリーは胸腺にて正の選択と負の選択を受け自己のMHCに提示された非自己抗原を認識するものだけが末梢血に放出されることで形成される。3)B細胞はT細胞のような選別システムはないがヘルパーT細胞による活性化が必要なため自己反応性抗体が産生されない、云々。平均点7.08点(10点満点)みなさん良く書けていました。

2番目の問題は、抗体の親和性の成熟について、その機構と意義について述べよという問題。これも、獲得免疫システムを理解する上でとても重要なトピックスのうちのひとつです。抗体を産生するB細胞は「変異と選択」というまるで生命進化のような過程を経る、というところが理解できているかがポイントです。下記の3点が述べられていたら満点です。1) B細胞ではAID (activation-induced cytidine deaminase) という酵素が特異的に発現しており抗体の可変領域に体細胞超突然変異が生じる。2)抗体は抗原需要体としても機能するので、より強く結合するようになった抗体を産生するB細胞が生き残り高親和性の抗体を作るB細胞が優勢になる。3)抗体産生初期は5量体を形成し結合力の強いIgMで対応するが、クラススイッチという機構によりIgMからIgGなどの抗体に変化していくことでより親和性の高い単量体の抗体に置き換わっていく、云々。平均点6.63点(10点満点)みなさんそれなりに書けていました。

3問目は新型コロナウイルス予防ワクチンに関する問題で、ファイザーやモデルナなどの遺伝子ワクチンが有効率95%と高いのに対して、不活化ワクチンは50%と低のはなぜか、ワクチンの作用機序の違いから論んじよという問題です。これは、言い換えると、講義で時間をかけて説明した、MHC class IとMHC class IIの抗原提示のシステムの違いとこれらMHC分子によって活性化される免疫応答の違いについて書いてください、という問題です。不活化ワクチンなどの蛋白質をベースとした抗原は、樹状細胞などにより貪食されたあとエンドソーム内腔にてプロセッシングを受けてMHC class IIに提示されヘルパーT細胞の活性化が誘導されるのに対して、遺伝子ワクチンなどの遺伝子発現によって細胞質内で発現させた内在性抗原はMHC class I に提示されて、細胞傷害性T細胞(CTL)が誘導される細胞性免疫が活性化される。そして、ウイルス感染防御にはこのCTLの活性化が必要であるから、遺伝子ワクチンが有効であったと考えられる、云々、というようなことが書かれていたら満点です。もちろん「可能性を論じよ」という問題なので、これ以外の可能性について正しい知識のうえ論理的に書かれていたらそれはそれでオーケーです。平均点5.86点(10点満点)この問題は相対的に見て皆さんあまり書けていなかったかったかもしれません。

最後の問題はピーナッツアレルギーに対する2003年のコホート研究からピーナッツオイルを配合したスキンケア製品の使用が発症リスクになる可能性が示されたことについて、現在提唱されている抑制性T細胞が関与する食物アレルギー発症機構について述べよ、という問題。腸管免疫には抑制性T細胞(Treg)が多く存在しており、腸管にて活性化されたTregが全身に移動し抗原特異的な免疫応答を抑制している。逆に経皮感作が先に起こるとTregの活性化がないため免疫応答が起こる、というようなことが説明できていればOKです。平均点7.03点(10点満点)みなさん良く書けていました。